愛と音の花束を
私を担当してくれる女性は、石浜さんと名乗った。

「営業時間外だというのに申し訳ありません」と謝ると、
「お気になさらないでください。うちの店長の数少ない友人の椎名さんの頼みですから」
と笑った。
椎名と店長は高校の時からの友達なのだそう。

カウンセリングの後、個室でマッサージに入った。
木やレンガといったナチュラルな内装で、アンティークな家具や小物が置かれている。BGMは、木々のざわめきや水の音。

ベッドに横になっている私の身体を、石浜さんの手の平がゆっくりと押していく。まずは、全身の状態をチェックするとのこと。

「お申し出の通り、首・肩周りが硬いですね。
バイオリンを弾かれるとのことですので、腕と手には細心の注意を払います。近くに音大があるので音楽家さんの身体はよく触らせていただいてますが、触れてほしくない場所があれば、遠慮なくおっしゃってください」

「私はそんな大層なものではないですから。お任せします」

「かしこまりました。
背中と腕の筋肉が立派ですね。お仕事は自営業とありましたが……」

「花屋をしてます」

セイカテン(生花店)というと、青果店・製菓店と紛らわしいので、この答え方にしている。

「素敵ですね。でも力仕事や水仕事も多いとききます。腰も張ってますね」

というわけで、上半身を重点的に、全身をもみほぐしてもらうことになった。

椎名が、『腕は確か』と言っていただけあって、石浜さんは、すごくうまい。
ちょうどいい力加減と、気持ちのいい手の動き。
マッサージは何度か行ったことがあるけれど、別次元に気持ちいい。
久々に味わう、肉体的に至福の時間。

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