愛と音の花束を
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翌朝、起きると、いつもより身体が軽い。
昨日の椎名の笑顔が頭に浮かぶ。
ぼんやりとした幸福感。
……あーあ。恋の初期症状。
夕方の歯医者の予約時間。
椎名に会えるのが嬉しいような、怖いような、微妙な気持ち。
ほんの少し念入りに化粧直しをしてしまった。
オシャレな建物の玄関で靴を脱ぐ。
……と、この間は気づかなかったけど、額に入れた小さな絵が飾られている。
気にして見てみれば、待合室の壁にも、トイレにも、あちこちに。
優しい色合いの風景画。
絵画はさっぱり分からないけれど、心が和むような、落ち着く絵だった。
昨日は美術館に慣れた様子だった。よく行くのかな。絵が好きなのかな。そういうの、似合う。
診察室に入って、彼の姿を見た時に感じたのは、……嬉しい、だった。
「先日はどうも」
と笑いかけられれば、
「いえ、こちらこそ」
と答えながら、ぼんやりと、また、幸せだなぁ、と思う。
いつもより、さすがに少し意識する。
診察されながら、すぐ傍にある存在を感じて、こうしていられるだけで幸せなんだから、このままでいいかなぁ、と、思う。
深入りすると、このぼんやりとした幸福感は、きっと失われてしまう。