愛と音の花束を

その時、足音と人の気配がした。

後ろを振り向くと、

……椎名が控え目な微笑みを浮かべて立っていた。

心がゆらゆら揺れる。

……会いたかったような、会いたくなかったような。

私は何も言わず、顔の向きを前に戻した。

「お疲れ様」

後ろから、優しい声が響いた。

あー、まずいなぁ。じんとくる。

「……うん」

「座っても?」

私はうなづきつつ、ベンチの端に移動した。

「お邪魔します」

椎名はゆっくりベンチに腰を下ろした。

好きな人がすぐそこにいて、
2人きりというのは、
こんなに胸が高鳴るものだっただろうか。

「駐車場とは反対方向に行くから、どこに行くのかなと思ってついてきてみた。こんなひと気のないところで、女性がひとりでいたら危ないよ?」

そうね。ひとりで星空を眺めるネックはそこだ。

「ということで、俺が用心棒代わりにここにいるから、思う存分一人反省会していいよ。何も言わないし何も見ない」

優しいけれど、色っぽさのカケラも感じないその口調に、心の中で苦笑する。

ドキドキしてるのは私だけか。
< 175 / 340 >

この作品をシェア

pagetop