愛と音の花束を
私は何も分かってない。何も見えてない。


この人はよく見えてるのに。


……私では、この人の隣に立てない。


だって、私はバカだ。
しかも、輪をかけてバカだ。
今でさえ、考えてるのは、こんなの、好きな女性とする会話の内容でも口調でもないな、ってことだもの。こんないいシチュエーションでそういう雰囲気にならないってことは、私はそういう対象ではないということだ。

彼にとって私は仲間か友人でしかない。

ああ、やっぱり友情までで止めておけばよかったんだ。

友人ならば、こんないい友人はいない。

今ならまだ引き返せる。


私は奥歯を噛み締めそうになり、思いとどまり、口の中のお肉を軽く噛む。
そっと深呼吸する。

そして、星空を見上げながら立ち上がり、口角を上げ、明るい声を出す。

「ありがとう。帰ろう」

今、友人としてとれる、精一杯の行動。

彼の方を見ずに、歩き出す。

「結花ちゃん!」

彼が立ち上がって追いかけてきたところで、私の電話が鳴った。

環奈。

友人のナイスタイミングに感謝しつつ、電話に出た。


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