愛と音の花束を
5
「この間はごめんね、気を悪くさせるつもりはなかったんだ」
火曜日夜、歯医者の時間。
椎名は顔を合わせるなり、真面目な顔で謝ってきた。
私は治療台に上がりつつ答える。
「別に気を悪くしたりしてないから、気にしないで」
「……ごめん」
この人の観察眼の前では、取り繕うのが大変だ。
「本当だってば。気づかなかったから、教えてくれて感謝してる」
これは本心。
治療されつつ、つらつらと考える。
環奈が言っていたことは本当なのだろうか。
私が踏みこんだら、この人はどんな反応を示すんだろう。
もし悪い結果に終わったとしても、友達に戻れるんだろうか。
診療台を降りる時、
「治療は次回で終わりです」
と言われた。
あ、そうか。いつまでも通えるわけじゃないものね。治れば終わりなんだ。
……もう、こうして会うこともなくなるんだ。
椎名の顔を見ると、医師の顔で「次回は歯科衛生士による歯磨き指導などを……」と話している。
最後いつも通り、「それではお大事に」と締めくくられ、終了。
彼はどう思ってるんだろう。
料金を支払った後、次の予約をとる。
来週の火曜にした。
あと一週間。
帰り道、踏み出し方を考える。
オーダーメイド枕の話、覚えてるだろうか。
一緒に行ってほしいってお願いしたら、買い物付き合ってくれるだろうか。
……あと一週間で、覚悟を決めよう。