愛と音の花束を


翌日木曜日、レストランウエディングの打ち合わせに来ていた。
本来休みだけれど、そうは言っていられない。

ウェディング用控え室兼打ち合わせ室でひとり、プランナーさんを待つ。
館内には、珍しくピアノによるBGMが小さく流れている。
バッハの『主よ、人の望みの喜びよ』。
クラシックだと、思わず耳を奪われてしまう。
ウエディング用の編曲なんだろう、甘く、柔らかく、あたたかい。
続いて、シューベルトの『アヴェ・マリア』。
これまた、心をふんわりと包み込むような、慈愛に満ちた演奏。
ピアノ曲はあまり聴かないけれど、これ、いいなぁ。
恋をすると、感受性が高くなるというやつか。
乙女な自分に苦笑する。

「お待たせしました!」

プランナーの沼田さんが姿を見せた。

いえ、逆にもう少し遅くてもよかったです。
この曲を最後まで聴きたかったので。
とはさすがに言えない。

「見学のお客様を案内していたので、ごめんなさいね」

「いえ、むしろ大丈夫だったんですか?」

「ええ。後はオーナーに任せてきたので。わ。これがイメージですか? 素敵〜!」

彼女は私が机の上に準備していたスケッチを見て声をあげた。

私は仕事モードにスイッチを切り替え、音を耳から締め出そうとする。

……だけど何故か、いつもより少し苦労した。結局集中できたのは、BGMが止んでから。
あぁ、仕事人失格。



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