愛と音の花束を

部屋から出たところで、野田さんに「お疲れ様」と声をかけると、彼女は明らかにビクリとした。

「今日はすみませんでした」

泣きそうな顔で謝られる。

ひどかったという自覚があるんだな。

「ちょっといいかな」

小部屋を示すと、彼女はコクリとうなづいた。



人のいない小部屋で、彼女はうなだれている。

「もしかして、辞めようかなとか、考えてる?」

私ができるだけ穏やかな声で言うと、

「……迷ってます」

と小さな声が返ってきた。

「それは、今日目の前で弾いてた人のせいかな?」

彼女ははじかれたように顔を上げ、なぜ、というように口をパクパクさせた。

「あの日を境に、休んでたから」

初合わせの日。
三神君に彼女ができたことが公になった日。

彼女は顔を歪ませ、視線を外した。

「……ただの、憧れだったんです。毎週姿を見て、一緒に弾けるだけで満足だったはずなのに……」

声を震わせる彼女。

ああ、やっぱりそうだったのね。

似てるな、私に。

「よくわかる」

私がそう言うと、彼女の瞳から涙がこぼれ落ちた。
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