愛と音の花束を
彼女は慌てて目をこする。

「こらこら、こすっちゃダメ。こするとまぶたが腫れる。泣く時は、頬に伝った涙を優しく抑えること」

「は、はい」

彼女はハンドバッグからハンカチを出して、頬に当てた。

「家に帰ったら、思いきり泣いて、その後に、温めたタオルと冷やしたタオルを交互に瞼に当てると、翌日だいぶ違うよ」

「……詳しいんですね」

「私も昔失恋してたくさん泣いたもの」

彼女の瞳が驚きで見開かれる。

「……信じられないです……」

「現に、未だ独身・彼氏なしですけど?」

笑って言うと、彼女はぎこちなく微笑んだ。

「でも今はこうして笑ってるから、大丈夫。いつか見てるだけじゃ我慢できないくらい大好きな人ができた時に、この経験を役立てて、幸せになれるといいね」

彼女は泣きながらうなづいた。

「もう少しして落ち着いたら、いい音楽仲間でいられるよう、頑張ってみようか」

心の中で、『お互いに』と付け加える。

彼女は「はい」と答えながら、また泣き笑いをした。



誰が悪いわけでもない。

人生、ままならないこともある。

それらを丸ごと飲み込んで、消化して、大人になっていくんだと思う。

だから、自分で彼女に言ったように、いい仲間・いい友人でいられるような努力はしたいと思った。

私も年齢的にはもう、いい大人だ。
それをできるくらいの大人でありたい。




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