愛と音の花束を
最後の治療、椎名は少しの時間で口腔内をチェックしただけで、後は歯科衛生士さんによる歯磨き指導だった。

それも終わり、椎名と2人、カウンセリングルームに入った。

シンとする部屋で初回と今日撮影した口内写真を見せられながら、治療の経過を説明される。

「半年に一度、定期検診をおすすめしています。お口の健康のために是非いらしてください」

話は終わりの雰囲気。
時計を見ると、もうすぐ次の人の時間だ。

「お世話になりました。よかったら、これ、どうぞ」

と、紙袋に入れたアレンジメントを渡す。

彼は中を見ると、驚いた顔をした。

私は席を立つ。

「結花ちゃん!」

腕を掴まれる。

咄嗟に感じたのは喜びで、慌てて押し殺す。

この人は、他の人のもの。
こんな感情はもう抱いてはいけない。
昨日全部、花に込めて来たじゃない。

彼は、真剣な顔で、言った。

「枕の話、覚えてる?」

……胸が、痛い。

覚えててくれたんだ。

私は一生懸命、笑顔を作る。

「覚えてる。おかげさまですっかりよくなったから、必要ないかな」

彼は、顔を強張らせた。

しばらく、固まっている。

「次の人の時間だよ」

私が言うと、静かに手を離した。

「……お疲れ様でした。お大事に」



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