愛と音の花束を
4.肩に置かれる手

1


8月に入った。
ところが、三神君の調子が悪い。
演奏に余裕がない。大きなミスはしないけれど、楽器が鳴らなくて、苦しそう。
スランプかな。

お盆前後はオケの練習も休みになる。
この間に立て直せればいいけれど。


8月16日、送り盆。
お墓参り前、仏花を買うため店に三神君が来てくれたのは、夕方頃だった。

「仕事だったので、今になってしまって」
という彼は、とても疲れて見えた。

お客様のピークは過ぎていたので、見送りがてら一緒に外に出る。

「……大丈夫ですか?」

彼は苦笑いをした。

「うーん、久々に限界まで練習する日が続くと、さすがに……」

あれだけ弾けてるのにまだ練習するのか、少し休んで気分転換すればいいのに、と思ってしまう私は甘いんだろうな。

それから、彼は心配そうな顔をして言った。

「永野さんこそ……何かあったんでしょう?」

……何もない、と言っても無駄だろう。
だからといってこの人に話せるものでもない。
彼もそこは分かっているんだろう、深く突っ込むことはしなかった。
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