愛と音の花束を
「で、どう? うちのかわいいバカ弟子は」

私は髪を整えながら返す。

「……最近あまり調子がよくないみたいで……。でも、おかげで、オケのみんなが頑張らなきゃって思うようになったので、その意味ではよかったのかなと考えてます」

「あ、いや、三神圭太郎はかわいくない。そっちじゃなくて、椎名那智のほう」

「……はい?」


…………椎名?


「あれ? 何だ、あいつ言ってなかったのか〜」

…………椎名の先生が、設楽先生?

そう言われてみると椎名の上達ぶりは納得できる。三神君に弾き方が似てきたことも。けれど、設楽先生は街のヴァイオリン教室で初心者を教えるような先生ではない。プロを目指す人を教える立場の人なのだ。そんな人がなぜ。どんなツテがあったというのか。

「で、どう?」

「あ、ええと、上達が速いのでどんな先生に教わっているんだろう、とは気になってはいましたが……」

「ふふ、ありがとう。で? 使い物になってる?」

「……期待以上です。1年でここまで戦力になるとは思ってませんでした。彼の姿勢は周りにも好影響を与えてます」

「それは何より。では欠点は?」

演奏上のことなど、この人の方がよほどよく分かっているだろう。
知りたいのは、オケでどうか、ということなのだろうけど……。

設楽先生は、ニコニコしながら答えを待っている。

私はしばし考え、言った。

「……それは、直接本人に言います」

すると先生は私の右肩に手を置き、顔を少し近づけてきた。
無駄に色っぽい。

「やっぱり口説きたいなぁ」

どうしてそうなる。

そのとき。
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