愛と音の花束を
ここは首都圏にある某市の公民館。
市民オーケストラの練習場である。
私、永野結花はこの市民オケでセカンドヴァイオリンのパートリーダーをしている。
5年前、強引にパートリーダーにさせられた。
いや、取り立てて楽器が上手いわけではない。
理由は単純。
ひとつ、高校生の時から所属しているという団歴の長さ。(ちなみに今32歳なので、人生の半分以上、このオケに身を置いていることになる。)
ふたつ、本業は家族と花屋を営んでおり、比較的時間に自由がきくということ。
パートリーダー、雑務が多い。
ファーストヴァイオリンのパートリーダーはコンサートマスター、略してコンマスなのだけど、コンマスはオケ全体のリーダーでもある。音楽的な仕事の方が圧倒的に多いし、重要。
ということで、ヴァイオリンパート全体の雑務はセカンドパートリーダーの私が担うことになる。
今日のように入団希望者がいれば、オーディション、入団手続き、説明、入団後のアフターフォローまで。
私は大部屋に楽器と荷物を置くと、新入団員に渡す資料を持って、さっき彼を案内した隣の小部屋へ向かった。