愛と音の花束を

「どうだった?」

ホワイエで後半のグレートに向けて準備をしている椎名に声をかける。

「お疲れ様。ええと……、勉強になりました」

「それはよかったけど、私達は? 設楽先生は何か言ってた?」

「いや、三神君の話ばかりだったから」

あれ、何だか少し、元気がないような。
まさか兄弟子に当たる三神君と比べて落ち込んでる?

「……ごめん。ちょっと今、脳みそキャパシティオーバー状態で、うまいこと言えないや」

椎名は正直にそう言って、切なそうに微笑んだ。

……胸が、キュッと痛む。

……そんな顔、しないで。

私は懸命に言葉を探す。

「三神君と比べても仕方ないでしょう? 比べるなら過去の自分にしろ、って私に言ってくれたじゃない」

椎名は揺れる瞳で私を見つめる。
私はしっかりと見返した。

友人として、仲間として、あなたを励ましたい。

「この一年で本当に上手くなった。設楽先生っていうすごい先生についてたとはいえ、やっぱり自身の努力の成果だと思う。もう立派な戦力。この成長曲線のままだったら、私いつか追い越されちゃうよ」

椎名は首を横に振りながら、少し笑った。

よかった。

「この次の定演では全乗りしてもらいますから、覚悟しておいて。
さ、まずは後半、頑張ろ。設楽先生聴いていくのかな? オケの中で立派に弾いてるところ見せてやろう?」

ようやく、全開の笑顔がこぼれた。

「ははっ。セカンドの後ろの方って客席から全然見えないけどね」

私も笑う。


うん。これでいい。これがいい。



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