愛と音の花束を
それにしても、初見でこれ?

音符を追うだけじゃない。
初見だと、つい、のっぺり弾きがちな部分もちゃんとニュアンスをつけてる。

いや、最初のうちはセカンドはまだ簡単だから。

さあ、ここから曲が展開し、複雑になっていく。

さすがに、たまに音程が怪しかったり、音が汚かったりする箇所が増えてきた。

とはいえ、必死に喰らい付いていってる感じはしない。何というか……待ち構えて迎え撃つ、みたいな感じ。
本来飛ばしたり跳ねさせたりと弓のテクニックが難しい箇所は、おとなしくベタ弾き。
タラララララ…と左手が高速で駆け上がる箇所は、当然完璧に弾けないので、最初と最後をきっちり。
重音が難しければ、重要な方だけちゃんと弾く。
それらの判断は、場当たり的ではなく、先回りしてなされているのが分かる。
弾きながら先を見ることができてるんだ。

驚いた。ほんとに初見能力が高い。

さらに、捨てるところと拾うべきところを見極め、曲の雰囲気を損なわない音楽的センスのよさ。

……悔しいけれど、かっこいいなぁ、と思ってしまった。

思ってから、慌てて、『あくまでも、同じヴァイオリン弾きとして』と心の中で付け加える。


6〜7分ほどの曲を弾き終わると、周りからは歓声と拍手。
私の隣で聴いていた三神君も、そして、私も。

本人は、「うおー、面白かったけど、悔しい‼︎」と叫んでいる。

面白かった、か。
確かに楽しんでるのは伝わってきた。
楽器、楽しめるようになったんだね。
よかった。

こうして、彼の成長を間近で見ていられるのは、うれしい。

やっぱりこれでいい。



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