愛と音の花束を
「……できました? では。具体的な誰かを思い浮かべた人? おめでとうございます」

……全然おめでたくないですけど。

「中にはおめでたくないと思う人もいるかもしれませんが」

ドキ。

「それでも、そういう人がいるということ自体、いい経験をしていると思います」

……そうなんだろうか。

「では、音楽や楽器を思い浮かべた人?」

あっ‼︎
そっちでもよかったのか‼︎

そう思った人は多かったらしい。
みんながざわめいた。

「うふふ、私と同じ音楽バカと呼んで差し上げます」

笑いが起こる。

「その他の人も、心に浮かんだものが、あなたを支える大切なものです。どうか大事にしてくださいね」

……私を、支えるもの。

……だけど、大事にすべきではない時は、どうしたらいいのだろうか。

「何も浮かばなかった人は、いつかその日が来るのを楽しみに生きてください」

またも沸き起こる笑い。
だけど私はさっきの早瀬先生の言葉について考えこんでいて、全然笑えなかった。

「では、チューニングどうぞ」

私はモヤモヤしたまま、立ち上がった。




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