愛と音の花束を
ひとり、建物の外に出て、夜空を見上げながら、駐車場に向かう。
帰る前に、明日の練習でコンマスとパートリーダーをしてくれる小野寺君と山口さんに引き継ぎをしていたら、帰宅組は私が最後になってしまった。
さっきの三神君の演奏が耳にこびりついて離れない。
ソリストが、ただの上手いヴァイオリン弾きならよかったのに。
そんなあるまじきことを思ってしまうくらい、彼の演奏は、劇薬だった。
キレと余裕を取り戻しただけじゃない。
スランプを脱した演奏は、以前よりも凄味が増していた。
高揚、興奮、感動……一緒に音楽ができることを感謝する一方で。
どれだけ真摯に音楽と向き合っていますか?
今までどんな風に生きてきましたか?
今どんな風に生きていますか?
そんなことを突きつけられた。
胸を張れるものがない私は、心が痛かった。
もちろん三神君はそんな意識を持って弾いているつもりはないだろう。
私の被害妄想だとは分かっている。
練習終了後には、疲労というより、気分の落ち込みの方が激しかった。
でもそんなのは私くらいのもので、みんなは興奮してテンション高く、飲み会に向かっていった。
そういえば、野田さんも元気になってた。
練習後、さりげなく野田さんに声をかけた。
三神君があんな風に彼女への愛を明かして、落ち込んでいるだろうと思ったのだ。
ところが、野田さんはすっきりした顔をして、笑った。
「さっきので完璧に吹っ切れました。あんなとんでもない彼氏と付き合うのは大変すぎます。全く、あんな人に愛される彼女さんはどんな人なんでしょうね?」
「それは私も興味がある」
「あー、普通のゆるい恋愛がしたいなぁ」
さすが、若いと立ち直るのも早いな。