愛と音の花束を
ただ、一瞬後にはそんなことを思った自分が許せなくて、慌てて飛び退き、

あまりに動揺して、その感情のまま、

椎名の頬を引っ叩いていた。




……痛い。

人を平手打ちしたのは初めてだけど、手も痛いし、心も痛い。





「……ごめん」

顔が見られないから表情はわからないけど、小さな謝罪の声が聞こえて、我に返った。

しまった。

これじゃ、男性として意識したと言っているようなものだ。
友人としての反応じゃない。

私は必死に言葉を探す。

そして、できるだけ明るい声で。

「ごめん。友達としては、近すぎて、びっくりして、つい」

どうか、気づかれませんように。

「じゃあ、お疲れ様」

椎名に背を向け、早足で車へと向かう。

言い逃げだと思ったけど、仕方ない。

だって、これ以上は無理だ。

暗くてよかった。

泣きそうなのを必死にこらえる顔が見られなくてすんだ。




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