愛と音の花束を


肩に残る彼の手の感触が、抜けない。

それは、切なさと罪悪感を同時にもたらしていた。

でも、そんな感情から逃げないと決めたんだ。

悪いのは、過剰に反応した私。
向こうは絶対気にしてるはずだ。
だから、私から声をかけようと決めていた。

今日は合宿後初めてのオケの練習日。
水曜日、いつもの公民館。

駐車場で、車から降りて歩き出す椎名の後を追う。
実は早めに来て車の中で待っていたのだけど。

「おはよう」

彼は振り向いて、驚いた顔で「おはよ」と言った。
よかった。顔に跡や傷はついてないらしい。

私は隣に並ぶ。

「この間はごめん。痛かったよね」

「……あっと……うん。仕方ない。こっちこそ悪かった。反省してる」

申し訳なさそうに謝る声に胸がツキンと痛んで、慌てて明るい声を出す。

「そういえば、初見がすごく上手でびっくりした」

「あ、うん、ありがと。……先生に鍛えられたから」

さすがは設楽先生。

「私はすごく苦手だから尊敬する」

笑いながら言うと、

「オケでは必要ないでしょ? 平気だよ。それに言わなきゃ誰もわかんないし」

彼も少し笑いながら返してくれた。

……馬鹿みたいだけど、泣きそうになった。

痛みに耐えれば、小さな幸せと嬉しさが手に入るんだ。









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