愛と音の花束を

ゲネプロは、本番と逆。グレート、メンコンの順。
上り調子のいい感じでゲネプロを終えることができた。
これから食事休憩と着替えをして、開場・開演となる。
ポツポツと人が残っているものの、ほとんどの人がはけていった後、私はひとりコンミス席で、本番の流れをシミュレートしていた。

みんなが席についたら、立ち上がって、オーボエの本多さんにチューニングの合図をして……

演奏開始まで一通り終わったところへ、本多さんがやってきた。
私は慌てて立ち上がる。

「さっきはすみませんでした」

メンコンのゲネプロ前のチューニング、なかなか合わせられなくて、時間がかかってしまったのだ。
本番は裏で合わせておくとはいえ、温度や湿度により、弦は狂う。舞台上で合わせ直す可能性は充分にある。

「結花ちゃんのことだから、三神君の前で緊張できないとか思ってたでしょう?」

「……はい」

「緊張しちゃいけないことはないんだよ? 誰でも緊張するのが当たり前。僕も緊張して最初音が震えたのが申し訳ない。三神君だって、内心は緊張してると思うよ」

「でも、いつも本番で本多さんと三神君がやるようには出来ない」

駄々っ子のようだ。
この人の前では、つい甘えて本音が出てしまう。

「うーん。結花ちゃん、ちょっと楽器置いて?」

私が椅子に楽器を置くと、本多さんも隣の椅子にオーボエとチューナーを置いた。
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