愛と音の花束を


仏壇に置かれた写真の中で微笑む、ヴァイオリンとトロフィーを抱えた男の子と、そのお父さんとお母さん。

三神さん。
息子さんは立派に成長されてます。
今度はとうとうシェヘラザードです。

写真の中の女性に向かって心の中で話しかけながら、花束を作っていると。

「いつもありがとうございます」

家の主が姿を見せた。

ここは、コンマスの自宅にある和室。
お邪魔するたび、仏壇に花を供えさせてもらっている。

「お母様には、お世話になったので」

私が市民オケに高校生で入ったばかりの頃、面倒をみてくれたのが、コンマスのお母様だった。

オケの中でのマナー、指揮の見方、楽譜への書き込みの仕方、すべて彼女から教わった。

優しくて、時にお茶目で、素敵な女性だった。

彼女にお世話になったのは1年と少し。
旦那様、つまりコンマスのお父様が亡くなって、彼女はオケを辞めた。
コンマスが小学6年生の時。

その6年後、彼女も亡くなった。
コンマスが高校3年生の時。
彼は音大に進む奨学金の話を断り、アマチュアで生きていくことを選んだ。

「お花も、ありがとうございます。母も父も喜びます」

演奏会で彼に送られた大量の花束は、いくつもの花瓶に活けられて仏壇の周りにあった。
一週間たつので、傷んでいるものを取り除き、まだ元気があるものは切り戻し、私が持ってきた花を足した。

何にでも合う白い花を選んできたのはこのため。

ただし、キク科の花は除いて。

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