愛と音の花束を
お客様の本心からの拍手は続き、カーテンコールが繰り返される。お愛想や一応の礼儀ではない、讃えずにいられない拍手。
これはもう三神君にアンコールやってもらわないと収まらない、と判断した早瀬先生と私は、阿吽の呼吸で共同戦線を張り、半ば無理矢理弾いてもらった。
バッハ作曲 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番から、ブーレ。
たった1分半くらいの短い曲だけど、それもまたとんでもなく素晴らしく、ステージ袖で彼を説得したであろう早瀬先生に感謝。
お客様が満足したのを感じ、弦トップと目線を交わし、『そろそろいいでしょう』ということに。
私が立ち上がり、オケに向かって、はけよう、と合図をし、休憩に入った。
ステージ袖に下がると、早瀬先生と三神君が通り過ぎるみんなとハイタッチして挨拶してくれていた。
最後は、私。
早瀬先生がにっこりと微笑み、私の肩を抱いて、「お疲れ様でした」と言ってくれた。
それだけでもう、報われる。
あなたも、素晴らしかった。あなたの元でコンミスできてよかったです。
そっと、抱き締め返す。
早瀬先生とのハグが終わると、三神君が私の前に立った。
まさか彼とハグは……
と思ったら、そのまさかで、肩にふわっと、ヴァイオリンを持っていない方の手を回された。
「ありがとうございました」
…………えっと。私、日本人なので。いくら三神君とはいえ、男の人にこういうことされるのは……。
早瀬先生と違って抱き締め返すわけにもいかず、どうしたものかと立ち尽くしていると、彼はそっと離れてくれた。
心の中で、ほっとため息をもらす。
「永野さんでよかった。母もきっと喜んでいると思います」
「こちらこそ、ありがとうございました。お母様も、三神君がいい男に成長したと喜んでいるはずです」
彼は恥ずかしそうに微笑んだ。
それは、少年に戻ったかのような表情だった。