愛と音の花束を
□
後半に向けてのチューニング。
後半でコンマスをやる三神君は、ソリスト控え室でギリギリまで休むことになっているので、チューニングは私が中心になって行う。
ヴァイオリンパート、まずはさっきセカンドトップをしてくれた樋口さん。
「お疲れ」
「ありがとうございました。樋口さんがいてくださらなかったら務まりませんでした」
「どういたしまして。永野、変わったよ、いい意味で。ひと皮むけた感じ」
……そうなのかな? まだ振り返る余裕がない。
「コンミスやらせてよかったよ」
……そこは苦笑して誤魔化した。
その後も。
「永野さんも素敵でした〜!」
「かっこよかったです〜!」
「お疲れ!」
「よかったよ」
ヴァイオリンメンバーを回る先々でテンション高く声をかけられ、戸惑った。
仕方なく、「ありがとう」「それはどうも」「お疲れ様でした」を繰り返し。
最後、椎名の番。
顔色は悪くない。雰囲気も落ち着いている。
私がA音を出すと、彼は一発で合わせてきた。
他の弦もスムーズに鳴らし、あっけなく調弦完了。
私が部屋のみんなに向かってオーケーサインを出すと、それまで控えめだった音出しが解禁された。
部屋が一気に賑やかになった中、椎名に向かって
「半年前とは見違えるね」
と言うと、彼は柔らかく笑った。
「0と1は大きく違うからね。それに、三神君の演奏に勇気をもらった感じ。励まされたというか、背中押してもらったというか」
あ。同じ。嬉しい。
思わず「わかる。私も」と大きくうなづくと、彼は嬉しそうにうなづき返してくれた。
「さっきはありがとう。あの人のおかげでだいぶ疲れがとれた」
「いえいえ。俺にできることは少ないから」
「私、弾き方変だった?」
「うーん、変ではないけど、ちょっと緊張して力入ってるのかなって。仕方ないよね。あんなソリストと弾いてたら呼吸もままならない。本番って難しいなと思った。でもすごくカッコよかったよ」
やっぱりこの男には勝てないなぁ、と思う。
それは決してネガティヴな感情ではなくて、胸がじんわり温かくなる類のもの。
「後半は俺たち後ろも頑張るからさ、結花ちゃんは後ろ頼って、呼吸しながら弾いたら、少しは疲労も違うんじゃないかな……、なんて、偉そうだな」
よく見ていてくれる。
そして、思い切ってアドバイスしてくれる。
それはとても嬉しいことだと思った。
「……ありがとう。意識してみる」
後半に向けてのチューニング。
後半でコンマスをやる三神君は、ソリスト控え室でギリギリまで休むことになっているので、チューニングは私が中心になって行う。
ヴァイオリンパート、まずはさっきセカンドトップをしてくれた樋口さん。
「お疲れ」
「ありがとうございました。樋口さんがいてくださらなかったら務まりませんでした」
「どういたしまして。永野、変わったよ、いい意味で。ひと皮むけた感じ」
……そうなのかな? まだ振り返る余裕がない。
「コンミスやらせてよかったよ」
……そこは苦笑して誤魔化した。
その後も。
「永野さんも素敵でした〜!」
「かっこよかったです〜!」
「お疲れ!」
「よかったよ」
ヴァイオリンメンバーを回る先々でテンション高く声をかけられ、戸惑った。
仕方なく、「ありがとう」「それはどうも」「お疲れ様でした」を繰り返し。
最後、椎名の番。
顔色は悪くない。雰囲気も落ち着いている。
私がA音を出すと、彼は一発で合わせてきた。
他の弦もスムーズに鳴らし、あっけなく調弦完了。
私が部屋のみんなに向かってオーケーサインを出すと、それまで控えめだった音出しが解禁された。
部屋が一気に賑やかになった中、椎名に向かって
「半年前とは見違えるね」
と言うと、彼は柔らかく笑った。
「0と1は大きく違うからね。それに、三神君の演奏に勇気をもらった感じ。励まされたというか、背中押してもらったというか」
あ。同じ。嬉しい。
思わず「わかる。私も」と大きくうなづくと、彼は嬉しそうにうなづき返してくれた。
「さっきはありがとう。あの人のおかげでだいぶ疲れがとれた」
「いえいえ。俺にできることは少ないから」
「私、弾き方変だった?」
「うーん、変ではないけど、ちょっと緊張して力入ってるのかなって。仕方ないよね。あんなソリストと弾いてたら呼吸もままならない。本番って難しいなと思った。でもすごくカッコよかったよ」
やっぱりこの男には勝てないなぁ、と思う。
それは決してネガティヴな感情ではなくて、胸がじんわり温かくなる類のもの。
「後半は俺たち後ろも頑張るからさ、結花ちゃんは後ろ頼って、呼吸しながら弾いたら、少しは疲労も違うんじゃないかな……、なんて、偉そうだな」
よく見ていてくれる。
そして、思い切ってアドバイスしてくれる。
それはとても嬉しいことだと思った。
「……ありがとう。意識してみる」