愛と音の花束を
ようやく涙が落ち着いた頃、環奈の「申し訳ありませんが、そろそろお時間でーす!」の声がホワイエに響いた。
我に返り、慌てて身体を離す。
頬を拭いながら、しまった、と思う。暁が着ている黒いボタンダウンシャツの肩が、私の涙で濡れている。
「ごめんっ、シャツ、濡れちゃったね」
「黒で目立たないから大丈夫。それよりスッキリした?」
頭は痛いしぼうっとするけれど、心はかなり軽くなっていた。澱んでいたものが、涙と一緒に出ていった感じ。
私がうなづき「ありがと」と言うと、暁は「よかった」と笑った。
「また、このオケに戻りたいな。今日の演奏聴いたらやっぱり弾きたくなった。向こうでも市民オケに入ってたからそれなりに弾けるけど、練習に毎回参加できないかも。団長とコンマスと結花がそれでもいいなら、戻りたい」
……暁が、戻ってくる……。
また一緒に弾けるなんて、夢みたいだ。
「きっとみんな喜ぶよ」
「じゃあ今度練習に顔を出す」
「うん。待ってる」
暁は目を細くして微笑み、「お疲れ様。ゆっくり休んで」と手を振って、帰っていった。