愛と音の花束を
残った私は、そこでハタと、周りの視線に気づいた。
しまった……。
内心、頭を抱えた。
何てことをしてしまったのだ……。
公衆の面前で、男性に寄りかかって泣くなど、いくら弱っていたからとはいえ、恥ずかしすぎる……。
そのとき、
「はい」
と、私の目の前に、大きな紙袋が2つ差し出された。
椎名だった。
……恥ずかしさと気まずさとで、顔を見られない。
せっかく落ち着いた頭が、またぐるぐるし始める。
見られなくなかった。どう思っただろう。バカな女だと思われただろうか。軽蔑されただろうか。今度こそ嫌われてもおかしくない。
「これ、結花ちゃんへの贈り物。重いから車まで運ぼうか?」
いつもと同じ、いやむしろいつもより明るい声。
あ……そうか。
別に私が泣こうが他の男に肩抱かれようが、この人には関係ないんだ。当たり前だ。自分は彼女と会った後なんだから機嫌がいいわけで。
だとしたら私のすべきことはひとつだ。
私は受け取りながら気力を振り絞り、精一杯の明るい声で言う。
「平気。ありがとう」
明らかに鼻声だしかすれていたけれど、一応頑張れた。
「お疲れ様」
静かな声を降らせてから、椎名は離れていった。
ようやく、顔を上げて後ろ姿を見る。
……胸が痛い。
この痛みに慣れるのと、想いが消えるのと、どちらが早いだろう。
「椎名さーん、打ち上げ行きましょー!」
稲森君たち若手男子チームがいつものように椎名を囲む。
「グレート弾きながら泣いたって話、よ〜く聞かせてくださいね!」
「こら、デカい声で言うな、恥ずかしいから」
……そういえば、ゲネプロの後に言ってたっけ。
泣いたんだ。
泣けるくらいの演奏ができたのなら、よかった。