愛と音の花束を


「記念演奏会の指揮者ですが、早瀬マリへのオファーは通りそうです」

記念演奏会の選曲に向けた打ち合わせということで三神君と2人でいつものカフェに来ていた。

「よかった! コンクールで優勝してから、アマオケは振っていただけないのかと思っていました」

早瀬先生は秋に行われた日本開催の国際指揮者コンクールで優勝した。これからプロオケからのオファーがどんどん来るだろう。喜ばしい。

「その記念演奏会で、設楽龍之介にブラームスのヴァイオリン協奏曲弾いてもらいます」

三神君の厳かな宣言に、私はカップを持ったまま、しばし固まってしまった。

……設楽先生が?

出身地で、いくらお気に入りの教え子がコンマスやってるからとはいえ、海外のコンクールを渡り歩いてきたような雲の上の人が、普通の市民オケで、ソリスト?
しかも現在は講師という本業に力を入れたいから、とあまり表舞台に立たないという人が?

「……よく、引き受けてくださいましたね……」

「結婚祝は何がいいのかと訊かれたので、ソリスト依頼しました」

さ、さすが三神君。一生に一度のチャンスをこれに使うとは。

「……しかもブラームス……」

「僕も彼女も大好きなので」

ヴァイオリン協奏曲の中でも重く、長い。まさに大曲。
記念演奏会にふさわしい。
私も大好きだ。
オケも、ものすごく重いけど、やってみたい。

設楽先生と一緒に弾いてみたい。
設楽先生の作る世界を体感してみたい。
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