愛と音の花束を
ところが。

「秘密です」

三神君は悪びれずににっこり笑って、そう答えた。

私は、もしかして、早瀬先生じゃないのかな、と思った。

メンコンの打ち合わせで見せたピアノの腕。
本番前の袖でも一緒にやりたいって話してたし。

ただ、彼女はプロの指揮者だ。マネジメント会社もついている。アマチュアのコンサートに出るのが公になったらまずいとか、色んな事情があって秘密にするのかもしれない。

もしかして、『動物の謝肉祭』のピアノも彼女が弾いたり?


そんなことを考えながら帰り支度をしていると、当の三神君が私の隣に戻って来て、楽器を片付け始めた。

「永野さん、アンサンブルコンサート、今回はスタッフ足りてるので、お客様としていらしてください」

「え……、大丈夫ですか? 手伝いますけど」

「いえいえ。謝肉祭が大人数なので、スタッフ足りてるんです。ね、間宮さん」

隣の暁が同意する。

暁は今まで通り、私の隣に楽器ケースを置いていた。
ただ、感じる距離は以前よりも広がった。
単なる友人の距離感。

それよりも。

暁も乗るの?

「三神君に絶対面白いからと誘われたので、ありがたく。結花は環奈ちゃんと二人で客席でゆっくり楽しんだらいいよ。じゃあ、お先」

身支度を整えた暁がヴァイオリンケースを肩にかけ、帰っていく。

三神君が後を引き継いで、言った。

「では、そういうことで、楽しみにしていてください」

……悪いけど、そんな笑顔で言われても、素直に受け取るほど純粋ではない。
怪しい。
何を企んでる?

「さ、選曲委員会、行きましょう。ブラコンごり押し共同戦線よろしくお願いします」






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