愛と音の花束を
とはいえ、アンサンブルコンサート間近ということで、みんな時間ギリギリまで練習していくため、小部屋はどこも満杯。

仕方なく、寒いけれど、ひと気のないロビーで話すことにした。

コの字のソファに、斜向かいに座る。

いろんな楽器の音が漏れ聞こえてくる中、椎名から口を開いた。

「我儘を言って申し訳ないんですが」

改まった口調に、嫌な予感しかしない。

「……秋の記念演奏会の乗り番は、一曲だけにしてもらえないでしょうか」


……よかった。やめるので乗れない、ではないことにとりあえず安堵した。


「……理由を、教えてもらえますか?」


ぐるぐるする内臓をなだめつつ、できるだけ明るく言った。

椎名は困ったように目を泳がせる。

……嘘がつけない男だなぁ。

三神君や暁なら、適当な理由つけて、しれっと切り抜けるのに。

そんな姿を見たら、すっと肩の力が抜けた。

「当てようか?」

「ええっ‼︎⁉︎」

私の言葉に、椎名は大袈裟なくらいに驚いた。

ああ、もう、面白いな。
私はクスリと笑った。

今なら言える。

今しかない。


–––––––「結婚、おめでとう」


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