愛と音の花束を
3
次のオケの集合日で、決めたボウイングを書き込んだ譜面をみんなに回す。
みんな、それを見ながら、自分の譜面に鉛筆で書き写していく。こういうところはまだアナログ。
椎名の譜面を覗くと。
……意外と綺麗に製本してあった。
オケのパート譜は、B4サイズのコピー用紙で配られる。これらを自分で貼り合わせなくてはならない。糊よりは、サージカルテープやマスキングテープが主流。失敗してもやり直しがきくから。
それでも、不器用な人や慣れないうちだと、ずれたり歪んだりするものだけど、椎名の譜面は綺麗でピシッとしていた。
「え? 何か変? どこか変?」
椎名が私の視線に気づき、譜面と私の顔をキョロキョロして見比べている。
パートリーダーとしての心構え、『いいところはどんどん褒める』。
「あ、いえ……、綺麗に製本できましたね」
若干棒読みではあるけれど、そう伝えると。
彼は嬉しそうに笑いながら、大きくてゴツゴツした手をひらひらさせた。
「手先は器用なんだ。ほら、職業柄」
そうね。
不器用な歯医者には行きたくない。