愛と音の花束を
譜面台には、ピアノの楽譜が開かれている。

2段。ト音記号とヘ音記号。オタマジャクシがいっぱい。しかも上にも下にもはみ出してる。さらにはペダルの記号まで。どうやったらこれらを一気に読んで弾けるのか。

「こんな楽譜読めるんじゃ、ヴァイオリンの譜読みなんて簡単だったでしょ」

「んー、まあ、それなりに。でも指番号違うのには苦労した」

ヴァイオリンだと人差し指から小指にかけて1,2,3,4だけど、ピアノだと、親指から小指にかけて1,2,3,4,5だものね。

「それに、いちいち調弦しなきゃならないし、平均律と純正律で響きが違うし、指の間隔が均等じゃないし、弓の使い方もヴィブラートのかけ方もバリエーションがたくさんあるし……」

気を遣って言い訳を並べる様子は、やっぱり那智だなぁ、と思った。

「この後何があるの?」

「最終オーディション兼テスト」

「え?」

「団員や関係者の前でひとりでピアノ弾いて、定演でピアノコンチェルト弾かせてくれるかどうかの団運営部による判断と、昔の先生にもう一度レッスンしてもらえるかどうかのテスト」

……え…………。

上手いとは思ったけど、コンチェルト弾けるレベルの人なんだ……。

って感心してる場合じゃない!
慌てて立ち上がった。

「引いた?」

「そうじゃなく! そんな大事なことの前に私とのんびりしゃべってる場合じゃないでしょ⁉︎ 練習邪魔してごめん!」

さっき三神君達が事務局長に挨拶してたの、試奏とかじゃなく、このことだったんだ!
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