愛と音の花束を
那智は面白そうに私を眺めながら言った。

「ここまで来たら後はもうメンタルの問題だから、全然邪魔なんかじゃないよ。むしろ一緒にいてほしい」

「…………」

そう言われると……。

「はい。座って」

邪魔にならないように椅子の端に座ると、腰に手を回されて、「もっとこっち」と引き寄せられた。

さっきより密着してる!

うれしいけど、

「こんなにくっついてたら弾けないでしょ」

と理性を保って言ったというのに、

「弾かないからいい」

とサラリとかわされた。

もう。

「何弾くの?」

那智は私の腰から手を離さず、もう一方の手で、「これ」と楽譜を示した。

「当ててみて?」

「私、ピアノ曲って、ほとんど知らないんだけど」

「知ってるはずだよ。……って、三神君が言ってた」

あ。もしや。

音符を見て頭の中で音を鳴らすのはすごく苦手なのだけど、ヒントがあれば幾分やりやすい。
後はリズムをざっと拾う。

ああ……やっぱり……。


「……ショパンのバラード1番……」


「当たり」


……これまた技術・表現ともに、ものすごく難しいときく。


「引いた?」


「……聴きたい」


私がボソッと言うと、ぐっと引き寄せられて、頭にチュッとキスをされた。

心臓に悪いのではないかと心配になるほど、身体中がドクドクする。
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