愛と音の花束を

ひとりで客席に入ると、団員が真ん中に固まって座っていた。
すでに客席の照明は落とされ、ステージだけがまばゆく輝いている。

中央に佇む、存在感たっぷりのグランドピアノ。

これまでは見ても何ともなかったのに、今では胸がキュンとする。
これから先、幸か不幸か、平常心でピアノに向き合えることはないのだろうな、と思った。


後ろの方でこっそり聴こうかと思っていたら、

「結花、ここ〜!」

人の固まりの前の方で手を振る環奈。

みんなの好奇心溢れる視線を敢えて無視して、彼女の元へ向かう。

固まりの最前列には、

ロマンスグレー紳士。
早瀬先生の旦那さん。
設楽先生。
三神君。
団長。
羽生さん。

その後ろの列に、
私。
環奈。
三神君の彼女。
早瀬先生。
那智と結婚式場にいた美女。
マッサージ店の店長。


「暗譜は完璧」
「アンサンブルも問題なし」
「三神君や早瀬先生と渡り合えるだけの音楽性もあった」
「後はこの難曲をどこまで弾きこなせるか、ですね」
三神君・団長・羽生さんの声がきこえる。

一方、
「やっぱラフ2がいいな」
「あの様子じゃラフ3いけるんじゃね?」
と、後ろの列の稲森君はじめ若者グループが小声で盛り上がっている。
気が早い。

「皇帝!」
「ベートーヴェンだったら3番がいい」
「メジャーなチャイコでまた満席にしようよ」
「メジャー度からいったらグリーグとか」
「かっこいいリストの1番とか、似合いそう!」
「シューマン! 絶対シューマン!」

コンチェルトのソリストやること前提で話を進めてるけど。
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