愛と音の花束を

「そして、この人が迷惑をかけたようでごめんなさいね」

早瀬先生が、例の美女を肘でつついた。

バッチリメイクをして、長い髪を巻いて、マキシ丈のスカートをはいた、私よりも背が高い、モデルのような美女。

彼女は苦笑し、口を開いた。

「こんにちは。那智の高校時代のクラスメイトで、この人の息子で、マリの兄です」

……は？

声は、確かに男性のものだ。

「この格好は世を忍ぶ姿というか、仕事上の趣味というか」

……はぁ。

確かに、お化粧を落としたら、男性に見えなくはない。

「永野さんは、ヘアメイクアップアーティストの“ソラ”って御存知？」
と早瀬先生。

最近テレビや雑誌によく出て、中性的な容姿と、『メイクは正しい方法なら手抜きしていい』という大胆なポリシーに基づく時短メイク術で世の女性の熱い支持を集めている、あの……

ということは⁉︎

「どうも。ソラです。本名です。何でも、僕がこの格好で那智といたことで誤解を与えたようで、申し訳ない。お詫びにあなたの結婚式のヘアメイクは僕が担当させていただきます。何も那智とじゃなくて、他の男とでも権利は失効しませんのでご安心を」

那智はソラさんの額にデコピンをした。

「イテッ！ ピアニストのバカヂカラで、商売道具に何てことすんだよ！」