愛と音の花束を
6
彼氏のプライベートな空間に初めて足を踏み入れる時は、いつもドキドキワクワクする。
どんな生活してるんだろう。
どんな物に囲まれて、どんな物が好きなんだろう。
歯科医院の隣に建つ立派な和風建築の家の中は、高級感が漂う空間だった。
立派な下駄箱(靴箱というよりは下駄箱という方がしっくりくる)。
どっしりした木の廊下。
異様に存在感のある太い柱。
居間に入ると、那智はエアコンのスイッチを入れた。
こういう何気ない仕草を目の当たりにすると、距離が近づいた気がして、嬉しい。
「部屋があったまるまでコート着てて」
居間に、私の荷物と、那智へ送られた花束が詰め込まれた紙袋を置くと、
「洗面所こっち」
と案内してくれた。
「水回りはリフォームしてあるけど、古い家だから寒くてごめん」
「一軒家は仕方ないよ。うちもそう」
並んで手洗いうがいをしながら、そんなことを話す。生活感あふれる仕草がくすぐったい。
清潔な真っ白いタオルで手を拭き終わると、
「寒かったらいつでもくっついていいからね」
笑いながら、ふわっと抱きつかれた。
……あったかい。
「……うん」
「え」
「何」
「いや。……かわいくてドキっとしただけです」
嘘だな。間があった。
どうせ拒まれると思ったんだろう。
仕方ない。以前、肩に触れられただけで、引っ叩いた前科がある。
でも今は別だ。正式に彼氏となった人とくっつくのは嫌いじゃない。
抵抗せずに、抱き締められたままでいると、頭の上で那智の顔が動く気配がして、あ、来るかな、と顔を上げる。
目が合う前に、唇が重なった。
甘く、
優しいキス。
また、
ああ、この人だ、と思う。
幸せで、
たまらなくなって、
好き、の気持ちをこめて、那智の背中に手を回す。
唇を軽く開くと、そこからじんわりと熱が注がれてきた。
ひたすら気持ちいい。
まいったなぁ。溺れそうだ。