愛と音の花束を
繊細な指先の動きにうっとり見惚れてしまう。

那智は静かにフレーズを弾き終わると、口を開いた。

「ソラと一緒だったのは、奴に偶然話したら面白がって付いてきたってこともあるし、音の響きを確かめてほしかったってこともあって」

「結果は……?」

「残念ながら」

「どうして⁉︎」

こんなに上手いピアニスト、雇わない手はないだろうに! あのオーナーめ、耳おかしいんじゃないの⁉︎
それとも、時間の問題? 土日は夜しか弾きに行けないものね。

那智は何故か顔を赤くして、ため息をついた。

「……容姿が良すぎる、って言われた」

…………わ。
冗談ではないらしい。

「…………それはそれは……」

「花婿が霞む可能性があるので、残念ながら、だそうで……。ソラの奴、滅茶苦茶笑いやがって」

あ。そういえば、笑いながら那智の顔、触ってた。

「結花も弾いてみる?」

那智が話題を変えたので、素直に応じることにする。

といっても、曲など弾けるわけはない。
ピアノに触れるのは、小学校以来?

とりあえず、親指から、ドレミファソ。

鍵盤、結構重いんだ。
ヴァイオリンよりも、腕と手と指の力が必要なんじゃないかな。

しかも、確かにピアノの音はするけど、
……ダサい。

軽々と、澄んだ音を出せるピアニストって、すごい。

「……那智はすごいね」

「何か弾いてほしい曲はごさいますか?」

那智がおどけて言う。

「ピアノ曲、知らないんだってば」

「ツィマーマンのバラードのCD持ってるんでしょ? あれに入ってる舟歌とか」

「……バラード1番以外、よく分からないっていうか……。私、ピアノソロ聴いてると眠くなってくるのよね……」

那智は唖然とした後、大笑いした。

もう!

「ピアノ協奏曲なら知ってるから、それでもいいっ⁉︎」

那智はピタリと笑いを止めた。

「笑いすぎました、すみません」
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