愛と音の花束を
本日の練習終了後。
コンマスと樋口さんと私の3人は、揃って廊下に出た。
初オケ、椎名の首尾はいかに。
「面白かったよ」
樋口さん、開口一番がそれだった。
「まあ、まずは、音程は長い音符ではすぐ修正できるから、耳は悪くないと思う。楽譜もちゃんと読めてるみたいで、一度も落ちなかった」
“落ちる”とは、どこを弾いているかわからなくてついていけなくなること。
「面白かったのは、出てくる音はひどいのに、格好はいかにも弾けてる風だってこと。イメージはちゃんと自分の中にあるけど、技術がついていかない感じ。たぶん、曲ありきで、音符に支配されないタイプだね。
練習すれば意外に戦力になるんじゃないかな。まあ、焦らず少しずつやっていこうって話をしたよ」
心がざわっとした。
……曲ありき。
……音符に支配されない。
最初に、彼がハイドンのセレナーデをそれらしく弾いたことを思い出す。