愛と音の花束を

練習後、帰り支度を終えて那智を見ると。

本多さんと話している。
珍しい。

「じゃあ、お先」
「お疲れ様」
私の隣にいた暁が帰っていく。

ところが、ちょうど本多さんと話し終わった那智のところへ行き、何やら那智と話している。

お互い貼り付けたような笑顔。

……何か、見てはいけないものを見た気分。




「何か甘いもの食べられるところ行こうか?」

車に乗り込むと、私は助手席から那智の顔を見上げながら言った。

那智は運転席から私を見下ろし、「結花も甘いもの食べたいの? 疲れてる?」と言った。

「いや、私はいらないけど、那智が疲れてるのかな、って」

練習の時もさっきも、無理が見えた。

アンサンブルコンサート本番で心身ともにピークに持っていった後だから、調子が落ちてるんだろう。

那智は目を見張ってから、少し笑った。

「幸せ疲れ。結花と一緒にいることに慣れれば治るから平気。何ならここでキスしてくれればたちまち治るけど?」

冗談なのか本心なのか。

でも。

私はぐるりと周りを見回した。
誰もいないし、暗い。
うん。

私はシートベルトを外し、那智の肩に手を伸ばした。

「えっ」と目を丸くする那智の唇をそっと塞ぐ。

柔らかくて、あたたかくて。

ずっとしたかった。

うん。幸せ。

私は身体を助手席に戻し、シートベルトをして言う。

「はい、出発」

「え、いや、あの」

「何」

「……可愛すぎて、頭がショートした」

「バカね。それより早くしないと、私眠くなっちゃうよ」

「それは困る。明日休みだから、今日は思い切りイチャつくんだもん」

「はいはい」

軽くあしらいながらも、幸せな予感に胸がきゅっとなる。

私は、動き出した車の中で、その感覚をじっくり味わうことにした。






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