愛と音の花束を
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それから何週かたった、水曜日の夜。
オケの練習から那智の家に帰ってきた後、居間で一緒にテレビを見ていた。
私は立派な籐椅子に座って。
那智はスクワットしながら。
「ピアノもヴァイオリンも足腰から」だそうで。ほんとにストイックな男だ。
業界のトップを走る人を追いかけるドキュメント番組が始まった。
今日はソラさんが取り上げられるのだ。
番組は、ソラさんの1日を追っていく。
雑誌撮影のヘアメイクの現場。取材対応。書籍執筆の打ち合わせ。
第一線で働く男はかっこいい。
真剣な表情は妹の早瀬先生と似ている。
番組は、彼の生い立ち紹介に入った。
お父さん、つまり那智の先生が、音大のピアノ科の先生(今は教授)で、小さな頃からピアノを始めたこと。
……音大教授……!
ホールで、事務局長がぺこぺこするわけだ……。
そんなすごい人に教わってた那智って、ほんとに本格的にやってたんだ。
ソラさんも、超有名音大の附属高校に進んだこと。
……は?
ソラさんと那智、クラスメイトって言ってなかった?
唖然として那智を見ると、バツが悪そうに目を逸らした。
「あ! だから上野っ⁉︎」
上野にある音楽高校に通ってたから、あの界隈に詳しかったのか!
那智は上目遣いできいてきた。
「……引いた?」
……正直、さすがにちょっと引いた。
だって天才って言われる人が集まってる学校なのだ。
そんなすごい人に、パートリーダーとはいえ、上から接してしまった……。