愛と音の花束を
「ソラと、マッサージ店の店長と、俺は、高校の同級生」

あの店長も‼︎

「まあ、今では3人ともプロの音楽家ではないから、先生には申し訳ないけど」

……どうして?と聞けるほど無神経ではない。

那智は先回りして言った。

「あそこには、天才だとか、化け物だとか、うようよしてるんだよ」

苦笑いを浮かべながら。

その笑顔は、
本当に苦いもので。

彼の若い頃の葛藤を想い、胸が痛くなる。

彼の優しさは、生来のものに加え、挫折を知ってる人の優しさだったんだ。

私は今までの経験の中から、必死で言葉を探して。

「設楽先生の受け売りだけど……、
挫折も、失恋も、人生を深くすると思う」

と言った。

那智は笑って、私の隣に立ち、頭に手を伸ばしてきて、髪をくしゃくしゃっとした。
ドキッとする。

「ありがと。だけど、アレ、マジで嫉妬したし焦った。あの人と俺じゃ勝負にならないし」

もう。仕方ない。大サービスしてやるか。

「……安心していいよ。今、あの時と比べ物にならないくらい、ドキドキしてるから」

那智は嬉しそうに笑った。

「俺でもあの人に勝てることがあるって分かって、今、すごい優越感」

男って馬鹿だなぁ。
呆れて笑ってしまった。
< 333 / 340 >

この作品をシェア

pagetop