愛と音の花束を
ピアノを習った先生から言われて一番印象に残っているのは、高校三年の時、
『ひとつひとつの花は美しいけれどまとまりのない花束のようだ』
という抽象的な指摘。

そんなこと、考えたこともなかった。

ともあれ、尊敬する先生の言うことだったので、音の花束をイメージしてみることにした。

すると。
伴奏のハーモニー進行や、主題の間に挟まれる経過句や、休符や音楽用語など、楽譜に書かれている色んなものが、意味を持って、立体的に浮かび上がってきたのだ。

新鮮な感覚だった。
心が震えるくらい感動した。

ピアノを弾くのを深く楽しめるようになったのは、それからだ。

遅かったけれど。

……いや、プロになるには遅かったけれど、人生からすれば遅くはない。
気付けて良かった。


歳を重ねて、好きになった人が花屋だと知った時は、もう、運命だと思った。


さて。
英雄ポロネーズはどう作ろうか。

愛は外せない。
華やか。情熱。
英雄、というからには、君のヒーローになりたい、なんてどうだろう。引かれるから秘密にしておくけれど。



誰かが彼女に、
彼女が好きだというカラーの花束を贈るのなら、
俺は俺にしか作れない花束を贈る。



こうしてこの先ずっと、


愛と音の花束を。







fin.










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