愛と音の花束を
こういう話、正直苦手。

自分に音楽性が乏しいことは自覚している。
だから今まで、譜面に書かれている音符を正確に鳴らすことを目標に練習してきたし、これからもそうしていく。

それは、才能のない者が音楽の世界で生きていく方法。

他でもない、才能あるコンマスのお母様から教わったことだ。

『私ね、音楽は好きだけど、才能はないの。いいの、自覚してるのよ。息子と比べるとそれがよくわかる。
でもね、音楽って優しいの。私みたいな者にも、世界を開いてくれてる。
地道に練習して、音符を正確に鳴らせれば、アマオケでは生きていけるのよ』

その言葉は、ずっと私を支えてくれている。

ざわついていた心が、すっとおさまった。



して、椎名本人はいかに。

コンマスと私が2人で楽器を片付けている椎名の所へ行き、今日の感想をきくと。


「感動した!」


彼は目をキラキラさせて叫んだ。


「オケの音色の中に自分がいて、みんなと一緒にこの音作ってるんだと思うと、もう、生きてて良かった〜!って感じです! あ、でもまだまだ弾けない部分がいっぱいあるので、練習して弾けるようになります!」

……あ、あつい。テンション高い。

「……それは良かったです。頑張ってください」

またも棒読みの言葉を発する私。
< 34 / 340 >

この作品をシェア

pagetop