愛と音の花束を

ブラームスの交響曲第1番。
前述の卒業記念演奏会の後半でも演奏された、メジャーな曲。

第2楽章に、コンマスの長く美しいソロがある。

練習の時から散々みんなをしびれさせたり唸らせたり泣かせたり、時には同じメロディを吹く管楽器の人を落ち込ませたりしてきた。


最初の3音。
シ レ♯ ミ の上昇音で、音楽の世界が、一気に広がるのだ。
初めてこの感覚を味わった時は、すごくびっくりした。

続いて、エスプレッシーヴォ(感情をこめて)とは、こんな風に歌うんだ、と見せつけられる。

練習のたび幾度となく、この人と一緒に音楽ができる幸せを噛み締めた。


そして本番。

身体がしびれた。

音楽を聴いて、あそこまで鳥肌がたったのは初めて。

弾きながら泣いたのも初めて。

指揮者でさえ、涙を拭った。


交響曲や協奏曲などの楽章の間では、聴衆は拍手をしない。

ただ、稀に例外がある。

それは、ものすごく素晴らしい演奏を讃えずにいられない時。


2楽章が静かに終わり、一瞬静まり返った後、じわじわと拍手が起こり、それはあっという間に大きくなった。
明らかに、「間違えて拍手しちゃった」ものではなく、「拍手せずにいられなかった」ものだった。
我が団始まって以来。


もちろん、全ての楽章が終わった後の割れんばかりの拍手とブラボーもすごかった。
経験だけは長い私が言うと、我が団の史上最高だったと断言できる。

そして、予定していたアンコール曲の前に、指揮者の指示で2楽章の後半部分をもう一度演奏した。
予定にないアンコールをするなんて、これまた初めてのケース。


あの演奏会で、私はもちろん、団員とお客様は思ったのだ。

–––––––もっと、三神圭太郎のソロが聴きたい、と。



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