愛と音の花束を
そうなのだ。それを言われると、私は何も言えなくなる。

20代後半。一般的な会社員は、平日は楽器に触ることさえままならないのが当たり前だと会社員の友人が言っていた。

大学オケに男性が多くても、市民オケになると若い男性は少ない。

三神君がコンマスをやってくれて、毎週水曜日の練習には欠かさず出てくれてる今の状態でさえありがたいのに、ソリストだなんて。
技術的に“弾ける”のと、お客様の前でソリストとして“弾く”のとでは、話が違う。
これ以上彼に努力を強いるのは、私にはできない。

議論は平行線。
そろそろ口を出すか。

「はい、よろしいですか」

私は手を挙げ、発言を求める。

「どうぞ」

「三神君がソリストやったら、誰がコンマスやるんですか」

「そりゃ結花ちゃんしか」

団長が当然、という顔をして答えた。

「私はやれませんし、やりませんから」

毅然として言い放つ。

「うそー。結花ちゃんやらなかったら他に誰がいるの」

「誰もいません」
「白石さんは育休中ですし」

三神君と私が答える。

なお、三神君の前のコンミス・白石さんは、出産・育児により休団中。

「というわけで、サブメインはもう一度検討しましょう」

三神君がにっこり笑って、でも目は笑っていない、あの表情で言った。





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