愛と音の花束を
練習後は練習後で。
「椎名さん、今日も弾いてるフリ、上手かったですね〜!」
「コラ。そういうこと、大きい声で言っちゃダメ」
……『下手だけど、弾いてる姿は上手そう』という評価が定着していた。
「椎名さん、メシ行きましょーよ、メシ!」
そして年下男子達から慕われている。いや、懐かれている。
「おぅ、どこ行く? そーいや稲森、誕生日近いじゃん。奢るよ。安いとこで」
「ええー、高給取りのお医者様じゃないですかー! いいとこ連れてってくださいよー」
「あのなぁ、俺は歯医者。コンビニと歯医者さん、どっちが多いか知ってるか?」
「そりゃもちろんコンビニじゃないですか?」
「ブブーっ。答えは歯医者さん。競争厳しいんだよ。しかも1日に診察できる人数には限界があるし。儲からないの」
「うそー、そうなんですか?」
そんな話をしながら彼らが去ると、大部屋は一気に静かになった。
やれやれ。
私も帰ろう。
「まわりを明るく照らす太陽みたいな人ですよね」
私の隣で帰り支度をしていたコンマスが、そう言った。
「……弾けない分、ムードで貢献してくれるのはありがたいですね」
私が返すと、コンマスは苦笑した。