愛と音の花束を

5


12月に入った。
曲の練習はもう中盤だ。
来月には本番指揮者が入る。
それまでにある程度形を作っておかないと、せっかくのプロ指揮者による練習が勿体ない。

そう思ったのは、シェヘラザードでコンマスがいつにも増してキレキレのソロを弾いたから。
序盤からギアを一段上げてきたのだと思った。
こちらものんびりしていられない。


シェヘラザードからオルガン付への入れ替えの休憩時間。

「三神君、何かあった?」

椎名がコンマスの所に来て、ニコニコしながら言った。

「まあ、ちょっと。分かりました?」

「うん。シビれた。惚れそう」

コンマスが、一瞬、はにかんだ。

……うわ、うそ。
そんな顔、初めて見た。

椎名はコンマスの肩をぽん、と叩き、自分の席へと向かっていった。

……椎名。あなた、コンマスまで溶かすことができるわけ?


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