愛と音の花束を

大部屋の隅。

「強弱はつけずに、ゆっくり弾いてください」

言いながら、スマホのメトロノームアプリを起動する。

「40くらいでやってみましょう」

私の手拍子に合わせ、2人でゆっくり、問題の箇所を弾いてもらう。

…………。
うーん、これは、かなり厳しい状況だな……。

ため息を押し殺し、ぐっと奥歯を噛み締め、パートリーダーとしての心得を思い出す。

『基本的なことを繰り返し伝え続ける』
『駄目なところと改善策は具体的に』

ふぅ、よし。

「はいストップ。椎名さんは音程はそれなりにとれてますが、移弦で少しもたつくことがありますね。移弦角度は最小で済むように研究してみてください」

「はい」

「飯田さんは、16分音符に入るタイミングが崩れる時があります。4分音符の時に自分の中で細かくカウントしてみてください。それから、16分音符でもっと弓使って、逆に4分音符では節約して大丈夫です」

「はぁい」

明らかに不満げな返事。
いやあなた、音程悪いとか移弦で弓がグラグラしてるとか、言いたいこともっとありますけど。
そこまで言ったらたぶんキャパオーバー。

「ではもう一度始めから」
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