愛と音の花束を
その時、後ろから飯田さんの不満げな声が聞こえてきた。

「あーあ、あたしも練習しないで弾けるようになりたーい」

反対側の壁際から、大きな声で。

私に向けた当てつけか。
仕方ないと分かっていても、疲れた心にグサッと刺さる。

でも彼女の気持ちはわかる。そう思うのも無理はない。

ところが。

「あはは、そりゃ無理じゃない?」

バッサリ否定。
椎名の声だ。

「えー⁉︎ だって、コンマスも永野さんも練習せずに弾けてるじゃないですか」

飯田さんの言葉に思わず目の前のコンマスの顔を見てしまった。

コンマスは窓の外を見て、微笑みを浮かべている。
目は笑ってない。怖い。

「ここに来たってさらってるとこ見たことないですよ。音出しした後合奏始まるまで、ぼーっとみんなのこと眺めてたり、他の楽器のトップと話してたりするだけですし」

……誰がどう弾いてるのか観察してるんだけどな。
他の楽器のトップとはおしゃべりしてるわけじゃないし。
それはきっとコンマスも一緒。
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