愛と音の花束を
コンマスとやってきたのは、近くのコーヒーショップ。
今までも、打ち合わせでよく使ってきた。
角のテーブルで向かい合う。
話って何だろう。
来月の本番指揮者に向けた打ち合わせか何かだろうか。
「さっきの椎名さん、カッコよかったですね」
コンマスがニコニコしながら言う。
……深い意味はないと思いたい。
「そうですか?」
「真面目ですよね」
「そうですか?」
「これからが楽しみですよね」
「……まあ、そうですね……。それで、お話というのは……?」
「はい。永野さんにしか頼めないお願いがあるんです」
……何だろうか。
見当もつかない。
コンマスは真剣な表情になり、私を真っ直ぐ見つめた。
綺麗だなぁ、と思った。
芯があって、凛として。
内面の高潔さが、表ににじみ出ている。
この人に頼まれ事をしてもらえるなんて、くすぐったい。
よほどのことでない限り、叶えてあげたい。
彼は口を開き、ゆっくりと言った。
–––––––「僕がソリストやるので、永野さん、コンミスやってもらえませんか」