愛と音の花束を


…………この人は、
今、
何て言った?


「秋の定演でコンチェルトやります。コンミスは永野さんにお願いします」


聞き間違いじゃなかった。


だとしたら答えは決まっている。


「無理です。できませんし、やりません」


コンマスは目を見張った。
こんなに即答で断られると思っていなかったのだろう。

「……え、あの、」

珍しく動揺している。
レアだな。
でも今はそれどころではない。
さっき、よほどのことでない限り叶えてあげたいと思ったけど、これはさすがにのめない。

「他の人を当たってください」

「でも、僕が後ろを任せたいのは永野さんです」

「ありがたいお言葉ですが、私には無理です」

「無理じゃないです。できますよ。現に、パートリーダーは立派に務めてらっしゃいます。同じようなものです」

軽く言ってくれる。
コンマスは1パートだけのリーダーではないのに。

オケを背負って、
指揮者とコミニュケーションし、
時には指揮者とオケの間に入り、調整する。

その他諸々、コンマスを見るたびに、私にはできない、と思い続けてきたのだ。

……無理。絶対無理。
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