愛と音の花束を

休憩時間に、団長がコンマスの元へ向かったので、ドキリとした。

「三神、やっぱお前すげぇよ」

「それはありがとうございます」

「ってことでソリストやろう!」

コンマス、まだ団長に言ってないんだ。

……でもここで、やりますよ、と答えるのだと思った。

ところが。
コンマスは困ったように微笑み、

「もう少し検討させてください。ちょっとやっぱり色々難しい問題があるので」

と答えたのだ。

まさか決意を翻したわけでは……。

そうだとしたら私のせいなのか? いや私に拘らなくても他の人を当たればいいんだし。でも今日のコンマスはどことなく元気がないような。やっぱり私のせいなのか?

「あの、永野さん」

ぐるぐる考えていると、椎名が隣に立っていた。

「あ、はい。何でしょう」

「よろしくお願いします」

ああ、そうだった。
今日のオルガン付のトップサイド、つまり私の隣は椎名の番だった。

ヴァイオリンパート、練習の時の席はトップ以外基本的に自由。
となると、指揮者の目の前の席は誰も座りたがらないので、セカンドは当番制にしている。
今日は椎名が初めてのトップサイドなのだ。
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