愛と音の花束を
しまった。
ああ、自分のせいで演奏止めるなんて最低だ。
すみません、と謝ろうとしたら。

「すみません! 俺が惑わせちゃったせいで!」

椎名が大きな声で言った。

「ちが……」

私の声は、みんなの爆笑でかき消される。

違うのに。
どうして。

椎名は私に向かって手を合わせて、申し訳なさそうに「ごめんなさい」をした。

それを見て、はっとした。

彼はあの人じゃない。
全然似ていない。
あの人ならこんなにプライドがない真似はしない。

そう思うと、かろうじて身体と感情の制御を取り戻せた。

「申し訳ありませんでした」

周りに頭を下げ、最後に椎名を見る。

言わなきゃ。「あなたのせいじゃない」って。
みんなに聞こえるように、大きな声で。

でも言えないうちに、「では320小節から」と指揮者が指揮棒を構えた。

ああ、嫌だ、この性格。
変にプライドが高くて、自分を落とせない。

とりあえず今は切り替えなきゃ。

楽器を構えて深呼吸する。
記憶を再び心の奥底にしまいこんで、きっちり鍵をかける。
そして心の中で唱える。
コンセントレーションコンセントレーション。



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